セールススキル

相手の懐にはいるためには

親友の定義は?

突然ですが、あなたには親友と呼べる人ががいますか?

昨年末、筑波大学教授の土井隆義氏の講演を聞く機会があり、大変興味深い内容だったので、先生の著書である『「個性」を煽られる子どもたち 親密圏の変容を考える」(岩波ブックレット)を読み始めました。

こちらに「親友」という関係性について書かれており、「これまで、親友といえば、お互いの対立や葛藤を経験しながらも、訣別と和解をなんども繰り返すなかで、だんだんと揺るぎない関係を創り上げていく、そんな間柄をさしていました」とあります。

私の中でも「親友」といえば上記です。

親友だからこそ、言いにくいことでも自分の考えや思いを伝えます。

ところが現代の子どもたちにとって親友という関係は、「言いたいことがあっても、どう言ったらいいのかわからないし、わかっているのは、個人的な奥の奥まで触れたら、あっという間に逃げてしまって、それまでの親友関係は全部壊れてしまうってことだけなんです。」とある少女の言葉を用いて、示唆していました。

このような関係性だからこそ、「お互いの対立点や相違点に目を凝らして解決を目指すというよりも、対立そのものをなかったことにしてしまう」のだそうです。

自分が傷つきたくないという気持ちから、思ったことをストレートに伝えるより、波風立てないようにあいまいな表現でやり過ごしてしまうのですね。

わからなくもありません。

「現代の子どもたち」とひとくくりにしてしまうのには、私としては違和感があるのですが、そのような人との関係性の変容がセールスの場面でも現れています。

深く関わることを恐れてしまう

よくセールス研修をしていると「ニーズに応える」とか「相手に合った提案」などの言葉は受講者から頻繁に出てきます。

しかし、実際のセールス場面ではなかなか実践できていないのが実情です。

なぜならば、その前提である”相手のニーズ”を聞きださないからです。

言い換えると「聞き出せない」からなのかもしれません。

「聞き出すこと」つまり質問することは、相手を理解するためには不可欠です。

しかし、個人的なこと(奥の奥までとは言わなくても)に触れることによって、人間関係が壊れると思っていたら、ましてや理解不可能に感じる年代や属性の異なる人たちにいろいろ聞くことは、容易なことではないのでしょう。

よく受講者からも「どこまで聞いていいんですか?」と訊かれ、「なんて聞いたらいいのかわかりません」「そんなこと聞けないです」という声を多く耳にします。

さらに、「もし、このようにお考えでしたら・・・」という自分の仮説を通して話していく受講者に対して、目の前にお客様がいるのですから、そこでその方に「このようにお考えですか?」と聞いて確かめたらどうですかとフィードバックをしても、変わる様子はありません。

相手の考えや思いを聞いたり確認したりせずに、提案を進めていこうとするから、どんどん話がずれていき、ニーズのない方に対してくどくど話をしたり、ピントはずれな提案をしたりしてしまうのです。

そうすると最終的に相手が「NO」と答える機会が多くなりますね。

時間もかかります。

そして、最後に「NO」と言われれば関係が壊れたと諦めてしまうのかもしれません。

これを繰り返せば、「私は営業が苦手」という意識も強化され、ニーズがさらに聞き出せなくなり悪循環に陥ってしまいそうです。

どんなことが嬉しいのかを聞いてみよう

それなら、質問の中身を相手が嬉しいことや楽しいことを描けるものから始めてみましょう。

「最近、一番嬉しかったことはなんですか?」など質問のセリフを考えておきます。

そして、「それは嬉しいですね」とその喜びを一緒に喜べるといいですね。

嬉しいことを聞いているので、なんて言ったらいいのかわからなかったら、上記のセリフのまま言ってみてください。

この嬉しいことが何か商品と結びつかないかなと考えてみるとよいでしょう。

ここがまずニーズと商品を結びつける土台です。

嬉しいことや楽しいことがないという答えも返ってくるかもしれませんね。

そしたら、困ったことや悩んでいることを聞いてみましょう。

少し、高度になるかもしれませんが、その気持ちを想像してみるといいですね。

そして、どうしたらそれを改善、解決できるのかを考えてみてください。

すぐに何か提案できなくても構いません。

まずはそこから始めてみましょう。

そして、私たちが接するお客さまは高齢な方が多いと思います。

その高齢な方たちは、冒頭に書いた「親友」の定義が前者の方たちのほうが大半です。

そういった深い関係を望んでいます。

むしろ表面的な関わり方はすぐに見破ってしまうでしょう。

だから、少しずつ相手のことを理解するための質問を重ねていきましょう。

これが相手の懐にはいっていく第一歩です。